DX・生成AIコラム
「不良が出る原因はなんとなくわかっている。でも、それを数字で証明できない」
庄内地方の製造業を支援していると、この悩みに何度も出会います。
私はITコーディネータとして、山形県・福島県の中小製造業を対象にDX推進計画の策定を支援してきました。その中で、IoTセンサーを使った品質管理のデジタル化に取り組む企業が増えてきています。
驚くのは、その導入コストです。IoTセンサーは1個あたり数千円で購入できます。温度センサー、気圧センサー、重量センサー、通過センサーなど種類も豊富で、「IoTは大企業のもの」「導入に何百万もかかる」というイメージとは全く違います。
この記事では、庄内の製造業がIoTで不良率を改善するための具体的な方法を、支援現場の事例をもとに4つのステップでお伝えします。
対象地域・業種: 庄内地方を含む山形県・福島県・宮城県の製造業で、品質管理や工程管理をデータ化するときの入口として整理します。
現場で見る共通点: 建設業でも、現場環境や作業進捗を数値で残す考え方は、品質、安全、協力会社管理に応用できます。
POINT
この記事の要点
不良の原因を決めつけず、現場の勘を測るべきデータへ変えます。
数千円のIoTセンサーで温度、気圧、重量などを取り始めます。
取得データと不良発生を突き合わせ、作業標準へ落とし込みます。
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1. 不良の「見えない原因」を仮説で洗い出す
検索キーワードを残しながら、現場で判断しやすい形に論点を整理します。
IoTセンサーを導入する前に、まずやるべきことがあります。「何を測れば不良の原因がわかるのか」を仮説として立てることです。
ある庄内の製造業を支援した際、社長がこう話してくださいました。
「不良が出る時って、なんか1週間連続して出る時があるんですよ。気圧の変動と関係があるんじゃないかな。根拠はないんですけど」
この「根拠はないけど、現場の勘としてそう感じている」という直感が、実は非常に重要です。
製造業の現場では、長年の経験から「この条件の時に不良が出やすい」という肌感覚を持っているベテランが多くいます。しかし、その肌感覚はデータで裏付けられていないため、対策の打ちようがないのです。
この企業では、以下のような仮説が出てきました。
| 仮説 | 測るべきデータ | センサーの種類 |
|---|---|---|
| 気圧の変動が不良率に影響しているのでは | 工場内の気圧 | 気圧センサー |
| はんだ付け工程の温度管理が甘いのでは | 装置内の温度・室温 | 温度センサー |
| 作業者の体調(気圧による頭痛等)が影響しているのでは | 気圧の変動パターン | 気圧センサー |
| 生産進捗がリアルタイムで見えないため、無理な納期対応が不良を生んでいるのでは | 完成品の数量推移 | 重量センサー |
この社長は朝礼で従業員の表情を見ていて、「重い表情の日と元気な日がある。気圧の変動と何か関係があるのではないか」と感じていました。
仮説は正しくなくてもいいのです。 大事なのは「何を測るか」を決めること。測り始めれば、仮説が正しかったかどうかはデータが教えてくれます。
仮説を立てる時のポイント
- 現場のベテランに聞く: 「どんな時に不良が出やすいですか?」という問いが出発点
- 「なぜ?」を3回繰り返す: 不良が出る→なぜ?→温度が不安定→なぜ?→季節で室温が変わる→なぜ対策しない?→そもそも温度を測っていない
- 因果関係ではなく相関を探す: 最初から「原因はこれだ」と断定する必要はありません。「この数字とこの現象は一緒に動いているな」という相関が見つかれば十分です
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2. 数千円のIoTセンサーでデータを取り始める
検索キーワードを残しながら、現場で判断しやすい形に論点を整理します。
仮説が立ったら、いよいよIoTセンサーの導入です。
ここで多くの経営者が驚くのが、IoTセンサーの価格が想像以上に安いということです。
「買っても数千円です」「そんな身近な金額なんですか」
支援先でセンサーの価格をお伝えした時の、社長と従業員の方のリアクションです。IoTという言葉から、何百万円もするシステムを想像されていたのでしょう。実際には、温度センサーや気圧センサーは1個数千円で購入できます。
庄内の製造業で実際に使われているセンサーの例
| センサーの種類 | 何を測るか | 製造業での用途 | 価格帯 |
|---|---|---|---|
| 温度センサー | 装置内温度・室温 | はんだ付け工程の温度管理、作業環境の監視 | 数千円〜 |
| 気圧センサー | 大気圧の変動 | 不良率との相関分析、体調管理の参考 | 数千円〜 |
| 重量センサー | 完成品の重量変化 | 生産進捗のリアルタイム把握 | 数千円〜 |
| 通過センサー | 物の通過を検知 | 出荷数のカウント、工程間の流れの可視化 | 数千円〜 |
重量センサーで生産進捗を可視化する方法
ある製造業の社長が、支援の中で面白いアイデアを出してくださいました。
「体重計みたいなものに完成品を入れる空箱を置いて、1台ずつ積み上げていく。箱がいっぱいになったら次の箱に移す。移すと体重計の上が軽くなって0になるから、それを1つの波形として、0になった回数だけ何箱進んだかわかる」
つまり、重量の変化パターンから生産進捗をリアルタイムで把握するという発想です。外出先からでもスマートフォンで生産の進み具合を確認できるようになります。
これは特別な技術ではありません。重量センサーとWi-Fi接続のエッジデバイスがあれば実現できます。
導入のステップ
- センサーとエッジデバイス(データ収集装置)を購入する — 合わせて数万円程度
- 設置場所を決める — 測りたいポイント(装置の近く、工場内の温湿度計の位置等)
- データの蓄積先を決める — クラウドサーバーや社内パソコンのハードディスク
- まず1〜2週間、24時間取りっぱなしにする — この段階では分析不要。データを溜めることが目的
ポイントは「小さく始める」こと。 全工程にセンサーを入れようとすると大ごとになりますが、1箇所に1個のセンサーを置くだけなら、半日で設置が終わります。
公的支援を活用する
山形県の工業技術センターでは、IoTのテストベッド(試験環境)を提供する事業を実施しています。センサーの貸し出しや、データの蓄積サーバーの提供、設置方法の指導まで、無料で受けられる場合があります。
庄内の製造業がIoTを始めるなら、まずこうした公的支援制度を活用するのが賢明です。自己負担ゼロでIoTの「お試し」ができる環境が整っています。
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3. 取得データと不良発生を突き合わせる
検索キーワードを残しながら、現場で判断しやすい形に論点を整理します。
データが溜まってきたら、次はそのデータと不良の発生状況を突き合わせます。
温度だけでは見えないもの
ある製造業では、はんだ付け工程の温度データを取り始めました。しかし、温度だけでは不良の原因を特定できないことがわかりました。
「はんだって結構雰囲気でも崩れるんですよ。装置内の雰囲気とか室温とか排気温とか、複数のデータを取って連動させないとわからない」
つまり、1つのセンサーだけでは不十分で、複数のデータを組み合わせて初めて原因が見えてくるのです。
具体的には、以下のようなデータの突き合わせが有効です。
| データA | データB | 見えてくること |
|---|---|---|
| はんだ付け装置の温度 | 室温・湿度 | 環境変化がはんだ品質に与える影響 |
| 気圧の変動 | 不良発生件数 | 気圧と不良の相関(体調影響を含む) |
| 生産出来高の時間推移 | 不良発生の時間帯 | 疲労や集中力低下のタイミング |
| 基板のロット番号 | 各工程の温度条件 | ロット単位のトレーサビリティ |
ロット情報とセンサーデータを紐づける
品質管理をさらに一歩進めるなら、ロット情報とセンサーデータの紐づけが効果的です。
ある支援先では、「この基板はこういう温度条件で、いつ、誰が作ったかがわかるシステムを作りたい」という構想が出てきました。重量センサーのカウント(何箱目か)とロット番号を紐づけ、さらに温度データを連動させれば、どのロットがどの温度条件で製造されたかが一目でわかるようになります。
これは大がかりなMES(製造実行システム)を導入しなくても、IoTセンサーの組み合わせで実現できる範囲です。
手作業の分析で十分
データ分析というと、AIや専用ソフトが必要だと思われがちですが、最初はExcelの散布図で十分です。
- 横軸: 気圧(hPa)
- 縦軸: 不良発生件数
この散布図を描いて、右上がり(気圧が高いと不良が増える)なのか、右下がりなのか、ばらついているのかを見るだけで、相関の有無は判断できます。
高度な分析ツールは後から。まずは「見てわかる」レベルで十分です。
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4. 改善サイクルをDX推進計画に組み込む
検索キーワードを残しながら、現場で判断しやすい形に論点を整理します。
IoTで不良の原因が見えてきたら、それを一過性の取り組みで終わらせないことが重要です。
IoTはDXの入口にすぎない
多くの製造業が誤解しているのが、「IoTを入れたらDX完了」ということです。IoTは、あくまでDXの入口です。
DX(デジタルトランスフォーメーション)とは、データとデジタル技術を使って顧客視点で競争上の優位性を確立することです。IoTで温度を測れるようになったこと自体はデジタル化であり、DXではありません。
IoTで得たデータを活用して、たとえば以下のような状態を目指すのがDXです。
- 不良率が業界平均の半分以下 → 顧客からの信頼が厚くなり、直接指名で受注が来る
- リアルタイムの進捗把握 → 顧客に正確な納期情報を即答できる → 「あの会社は対応が速い」
- 品質データの蓄積 → 「この基板はこの条件で製造されました」とトレーサビリティを提示できる → 大手メーカーとの直接取引の条件をクリア
ある庄内の製造業の社長は、支援の中でこうおっしゃいました。
「大手から直接指名で注文が入るような状態ってどういう状態なんだろう。今は間に何社か入っているけど、うちのブランドで直接勝負できるところまで行きたい」
この「ブランドで直接勝負できる状態」こそがDXの到達点であり、IoTはそこに至るための最初の一歩です。
DX推進計画に組み込む方法
IoTの取り組みを計画に落とし込む際は、以下のように段階を設計します。
【1年目】データを取る
IoTセンサー設置 → 24時間データ蓄積 → 不良率との相関分析
↓
【2年目】データで改善する
原因特定 → 対策実施 → 不良率の定量的改善
↓
【3年目】データを武器にする
トレーサビリティの確立 → 顧客への品質データ提供 → 直接取引の提案
この計画は毎年更新するものです。 1年目に取ったデータの結果を踏まえて、2年目の計画を修正する。環境が変われば方針も変わる。DX推進計画は、作って終わりの書類ではなく、経営のPDCAを回すための道具です。
忙しくて時間がない問題
庄内の製造業で、IoTやDXの最大の障壁は「時間がない」ことです。
ある社長がこう率直に話してくださいました。
「忙しさにかまけちゃうので。2年目、3年目は自分たちでできるかな、大丈夫かなって。月2,000時間ぐらいある生産時間のうち、何パーセントをこういう改善活動に使うか、計画的にやらないと」
お金だけでなく、時間も投資対象です。 毎月の生産時間のうち、たとえば5%(月100時間)をデジタル化の改善活動に充てると決める。この「時間の投資」を経営者が明確に宣言し、DX推進計画に書き込むことで、「忙しいからやれない」を構造的に防ぐことができます。
05 SUMMARY
まとめ — 数千円のセンサーから、ブランド構築まで
記事全体の要点を、次の行動につながる形で整理します。
庄内の製造業がIoTで不良率を下げるための4つのステップをまとめます。
Step 1: 不良の「見えない原因」を仮説で洗い出す
現場のベテランの肌感覚を大切にする。「なぜ?」を3回繰り返して、何を測れば原因が見えるかを特定する。
Step 2: 数千円のIoTセンサーでデータを取り始める
IoTセンサーは1個数千円。重量センサーで生産進捗、温度・気圧センサーで品質管理。公的支援を活用すれば自己負担ゼロで始められる。
Step 3: 取得データと不良発生を突き合わせる
1つのセンサーでは不十分。複数のデータを組み合わせて相関を探す。最初はExcelの散布図で十分。
Step 4: 改善サイクルをDX推進計画に組み込む
IoTはDXの入口。データを武器にして、顧客視点の競争優位性を確立する。計画は毎年更新する道具。時間の投資も明確に計画に書き込む。
庄内の製造業には、実直にものづくりに取り組む気質と、高い技術力があります。 そこにIoTという「目」を加えることで、見えなかった原因が見え、打てなかった対策が打てるようになります。
大事なのは、最初から完璧なシステムを目指さないこと。数千円のセンサー1個から始めて、データが教えてくれることに耳を傾ける。その積み重ねが、やがて「あの会社でなければダメだ」と言われるブランドを作ります。
06 ISSUE
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