DX・生成AIコラム
山形県の庄内地方は、古くから「ものづくりの土地」として知られています。
庄内の人々の特徴として、実直に仕事に取り組み、自分たちが作るものに妥協しない気質があります。この気質に支えられて、精密板金、電子部品の実装、農業機械の製造など、多様な製造業が庄内地方に根づいてきました。
しかし今、庄内の製造業は大きな転換点を迎えています。
地域の中小製造業(町工場)が相次いで廃業しているのです。廃業した工場が担っていた仕事が宙に浮き、発注元は「どこに頼めばいいかわからない」という状態に陥っています。
この構造変化の中で、OEM生産(他社ブランド製品の受託製造)に新たな活路を見出す庄内の製造業が出てきています。
私はITコーディネータとして、庄内を含む山形県・福島県の製造業を複数社支援してきました。その中で見えてきたのは、OEM生産で競争力を発揮するには、デジタル化が不可欠だということです。
この記事では、支援現場で実際に取り組んだ事例をもとに、庄内の製造業がOEM生産とデジタル化を掛け合わせて競争力を作る具体的な方法をお伝えします。
対象地域・業種: 庄内地方を含む山形県・福島県・宮城県の製造業では、OEM生産の受け皿として選ばれるために、品質・工程・情報共有を説明できることが重要です。建設業の協力会社管理や現場品質管理にも通じる考え方として整理します。
現場で見る共通点: OEM生産の話は製造業が中心ですが、建設業でも協力会社、工程、品質、写真、原価の管理を見える化するほど、発注者から信頼されやすくなります。
POINT
この記事の要点
庄内を含む南東北の実直なものづくりを、選ばれる受け皿として打ち出します。
品質、工程、取引先管理をデジタル化して信頼を説明できる状態にします。
協力会社、工程、品質、原価の見える化は業種を超えて競争力になります。
01 OEM
なぜ今、庄内の製造業にOEM生産のチャンスがあるのか
品質と一貫対応の強みを、選ばれる仕組みに変える視点です。
OEM生産のチャンスが庄内にある理由は、3つの構造変化が同時に起きているからです。
1. 町工場の廃業による受け皿不足
全国的に中小製造業の廃業が加速しています。発注元の大手企業にとっては、これまで部分的に外注していた工場がなくなるわけですから、「別のところ」を探す必要が出てきます。
しかし、部品加工だけ、塗装だけ、組み立てだけと、工程ごとに別の工場に頼むのはコストも管理も大変です。調達から加工、塗装、組み立て、出荷まで全工程を一社で完結できる「一貫生産体制」を持つ工場があれば、発注元にとっては大きなメリットです。
2. コスト削減圧力の高まり
製造業は毎年、調達コストの見直しを求められます。工程ごとに別々の工場に発注している場合、それぞれの工場とのやりとり、品質管理、物流の手配にコストがかかります。一貫生産なら、中間マージンを削減し、全体最適でコストダウンが実現できます。
3. 庄内の「実直さ」が品質で差別化になる
庄内地方の製造業には、品質に対する妥協のなさが文化として根付いています。ある工場を訪問した際、従業員の方が「自分たちが作るものに妥協しない」と語ってくださいました。
これは言葉で言うのは簡単ですが、実際にこの文化が組織に浸透している工場はそう多くありません。発注元が求めているのは、安さだけではなく「安定した品質で、途切れずに供給してくれるパートナー」です。庄内の実直な気質は、OEM生産においてそのまま競争力になります。
02 OEM
OEM生産で勝つためにデジタル化が必要な5つの領域
製造業・建設業のどちらでも、社内を整える取り組みと顧客価値を変える取り組みを分けて考えます。
OEM生産に乗り出す際、デジタル化すべき領域を5つに整理します。
一貫生産体制の「見える化」
OEM生産で発注を獲得するには、「うちは何ができるのか」を具体的に見せることが必要です。
ある庄内の製造業では、OEM専用のWebページを新たに制作しました。そこで打ち出したのが「7つのメリット」です。
- 安定供給の実現: 若い技術者とDX管理体制で途切れない供給
- コストダウン効果: 一貫生産と効率的な材料調達で最適化
- リードタイム圧縮: 外注削減と在庫管理で迅速な生産対応
- 量産対応: 柔軟なライン切り替えで幅広い生産規模に対応
- 不良率低減: ISO基準の品質保証と現場改善活動
- トレーサビリティ: DX管理システムで生産履歴をロット単位まで管理
- 納期遵守: 生産の可視化と柔軟な体制で確実に確保
このページの設計で重要だったのは、「何を作れるか」ではなく「どんな困りごとを解決できるか」という視点です。
発注を検討する担当者が知りたいのは、「レーザー加工ができます」という設備情報だけではありません。「小ロットから対応できるのか」「品質管理はどうなっているのか」「急な増産に対応できるのか」という自分たちの困りごとを解決してくれるかどうかです。
さらに、ある産業支援機関の専門家からは「具体的に作った製品の画像があった方がいい。こういうレベルのものができるんだ、というイメージが湧く」というフィードバックがありました。設備スペックだけでなく、実際のアウトプットを見せることで、発注元の安心感は格段に高まります。
また、設備一覧のPDFダウンロード機能を設けることも効果的です。担当者がPDFを印刷して上司に「こういう会社があるんですけど、どうでしょう」と持っていける。この「社内稟議に使える資料」があるかないかで、商談の進み方が変わります。
品質管理・トレーサビリティのデジタル化
OEM生産において、品質管理は最も重要なテーマです。特にトレーサビリティ(生産履歴の追跡可能性)は、発注元から必ず求められます。
ある電子部品を製造する庄内の企業では、品質管理の記録が全て紙の帳票に手書きでした。毎月閉じてファイルにして、倉庫に保管する。「2年前のこの月の製品がおかしい」と指摘が来たら、倉庫に行って箱を引っ張り出して、山のようなファイルから探すしかない。
この状態では、トレーサビリティを求める発注元の要求には応えられません。
デジタル化の第一歩は、紙の帳票のスキャン・PDF化から始められます。 それだけでも検索が可能になり、「2年前の○月のロット××番」の記録にすぐたどり着けるようになります。
さらに進めると、生産設備からリアルタイムにデータを取得する段階に入ります。温度、圧力、加工条件などの生産パラメータを自動記録できれば、「この製品はこの条件で生産しました」という証跡をロット単位で残せます。
ただし、この段階では注意が必要です。ある企業で新しい設備を導入したところ、フロントパネルには温度や条件が表示されるのに、そのデータを外部に出力する機能がなかったというケースがありました。メーカーに問い合わせたところ「対応するには何百万もかかる」との回答。
こうした場合、カメラで画面を撮影し画像認識でデータ化する方法が近年実用化されています。設備の画面は変わらないし位置も変わらないので、画像認識の精度は非常に高い。設備を改造するよりはるかに安価に、生産データのデジタル化が可能です。
取引先管理の効率化
OEM生産を拡大すると、取引先の数が増えます。ある庄内の製造業では、月に7〜8社と取引があり、帳票のフォーマットが取引先ごとに全て違うという状況でした。
社内に残す書類とお客様向けの書類の内容は同じなのに、フォーマットが違うために二度書きが発生する。管理側のコストが想像以上に高くなっていたのです。
この企業では、経営者が1人でほぼ全ての管理業務をこなしていました。「デジタル化が弱い」という自己診断の結果を受けて、まずLINE WORKSを導入して社内の情報共有を始めたところでした。
次のステップとして取り組むべきは、帳票のテンプレート統一と、クラウドでの共有管理です。取引先ごとに異なるフォーマットで提出する部分はそのままに、社内管理用の帳票を統一する。それをクラウド上で管理すれば、営業先でもタブレットで進捗が確認できるようになります。
「出先でお客さんのところで『ここまで進んでます』って確認したい」という現場の声もありました。その通りで、OEM生産では「今どこまで進んでいるか」をリアルタイムで確認できることが、発注元の信頼につながります。
リーダー育成とデジタル人材の底上げ
OEM生産の拡大に伴い、管理業務も増えます。経営者1人に管理が集中している状態は持続可能ではありません。
ある企業の経営者はこう語っていました。
「今はリーダーを2〜3人育てているところ。少しずつ覚えてもらえれば、自分もDXの勉強ができるようになる。今のところ、全部自分でやっちゃっている」
デジタル化の推進と、次世代リーダーの育成は同時に進めるべきテーマです。
具体的には、デジタルツールの操作を若手リーダーに移管しながら、経営者は「次にどのデジタル技術を導入すべきか」を検討する時間を作る。この分業ができるかどうかが、OEM生産を持続的に拡大できるかの分かれ目です。
工場にパソコンのモニターを設置して「みんなでパソコンに触る意識を変えよう」という取り組みを始めた企業もあります。声と手と紙だけだったコミュニケーションに、少しずつデジタルの接点を増やしていく。地道ですが、確実に組織の底上げにつながります。
「選べる立場」を目指す中長期の視点
OEM生産を始めた当初は、「仕事がもらえればありがたい」という気持ちで小ロットから量産まで何でも引き受けるのが現実です。
しかし、ある経営者が語ってくれた「最終的なゴール」は印象的でした。
「いつか、お客さんを選べる立場になりたい。価値観の合う、やっていて楽しい仕事を選べるようになれば、従業員も気持ちよく働ける。5年先、10年先の目標として」
この「選べる立場」に到達するためにこそ、デジタル化の蓄積が効いてきます。
- トレーサビリティのデータが揃っていれば、高品質を証明できる
- 生産データの蓄積があれば、コスト見積もりの精度が上がる
- Webでの発信が充実していれば、こちらから営業しなくても問い合わせが来る
- 帳票管理が効率化されていれば、取引先が増えても管理コストが膨らまない
デジタル化は「今の仕事を楽にする」ためだけのものではありません。5年後、10年後に「選べる立場」で仕事をするための基盤づくりです。
03 VIEWPOINT
庄内の製造業が持つ「静かな強み」
検索キーワードを残しながら、現場で判断しやすい形に論点を整理します。
庄内には、半導体関連部品やEV関連部品を手がける企業もあります。ある工場では、テスラの電気自動車に使われるケーブルを製造していました。酒田で、イーロン・マスクの製品が生産されている。これは庄内の技術力の証明です。
しかし、こうした事実はあまり外に発信されていません。庄内の気質として「黙々とやる」「いいものを作る」ことには長けていても、「それを伝える」ことには積極的ではない企業が多い印象です。
OEM生産の営業においては、「伝えること」も技術のうちです。
自社の設備、品質管理体制、対応可能な加工領域、実際に作った製品の例。これらをWebページに整理して発信するだけで、発注を検討する担当者の目に留まる確率は格段に上がります。
庄内の製造業には、発信すべき技術力と実績があります。それをデジタルの力で「見える化」し、「伝わる化」していくこと。これが、OEM生産×デジタル化で競争力を作る本質です。
04 SUMMARY
まとめ — OEM×デジタル化で庄内の製造業が取り組むべき5つのこと
製造業・建設業のどちらでも、社内を整える取り組みと顧客価値を変える取り組みを分けて考えます。
- 一貫生産体制を棚卸しし、Webで「見える化」する — 設備スペックだけでなく、「どんな困りごとを解決できるか」を発信する
- 品質管理・トレーサビリティをデジタル化する — まず紙帳票のPDF化から。設備データの自動取得は段階的に
- 取引先管理のコストを下げる — 社内帳票を統一し、クラウドで共有管理
- リーダーを育成し、デジタル人材の底上げを図る — 経営者1人に依存しない体制づくり
- 「選べる立場」を見据えた中長期計画を立てる — デジタル化の蓄積が5年後の交渉力になる
庄内の製造業が持つ「実直さ」「品質への妥協のなさ」「一貫生産の技術力」は、すでに大きな強みです。その強みを、デジタル化で「見える化」し「伝わる化」していくことで、OEM生産の市場で確かな競争力を築くことができます。
05 OEM
OEM生産のデジタル化・Web発信でお悩みなら
製造業・建設業のどちらでも、社内を整える取り組みと顧客価値を変える取り組みを分けて考えます。
ITC南とうほく事業協同組合では、山形県・福島県・宮城県の中小製造業を対象に、DX推進計画の策定からOEM専用Webページの構築まで一気通貫で支援しています。
ITコーディネータが在籍し、補助金の活用、品質管理体制の設計、Web発信の戦略まで、御社の状況に合わせた提案が可能です。特定のITベンダーに縛られない、フラットな立場での助言を強みとしています。
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