DX・生成AIコラム
DX推進計画の策定支援でよくあるのが、「製造業の事例は多いけど、うちみたいなサービス業はどうすればいいの?」という質問です。
私はITコーディネータとして、山形県・福島県の中小企業を対象にDX推進計画の策定を支援してきました。その中には、旅行会社や観光関連事業者の支援もあります。
観光業のDX推進計画は、製造業とは構造が違います。製造業は「モノの流れ」を可視化すればデジタル化の方向が見えてきますが、観光業は「人の体験」と「社内の情報の流れ」の両方を扱う必要があるからです。
この記事では、山形県の観光業がDX推進計画を策定する際に見落としがちな3つのポイントを、実際の支援現場で見てきた事例をもとにお伝えします。
対象地域・業種: 山形県の観光業を中心に、南東北の宿泊、飲食、地域サービス業にも通じるDX推進計画の論点として整理します。
現場で見る共通点: 観光業の課題は、製造業や建設業と同じく、人材不足、情報共有、顧客接点の設計に表れます。
POINT
この記事の要点
予約、接客、会計、情報発信を少人数でも回る形へ整理します。
観光業のDXは効率化だけでなく、地域の体験価値を高める取り組みです。
思いつきのツール導入ではなく、DX推進計画として順番を決めます。
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1. 社長の発展的ビジョンと現場の非効率を分離して計画に入れる
検索キーワードを残しながら、現場で判断しやすい形に論点を整理します。
DX推進計画の策定で最初に起きる問題が、社長のビジョンと現場の課題が混在することです。
ある山形県の旅行会社を支援した際、社長と幹部でまったく違う課題認識を持っていました。
社長のビジョン:
「旅には人と社会を変えていく力がある。スマートフォンが年配層にも普及している今、デジタル技術を使って旅の体験をもっと豊かにしたい」
社長は、お客様(60代〜80代が中心)にスマートフォンを活用したデジタルサービスを提供する構想を温めていました。旅先の情報をリアルタイムで届けたり、旅の記録をデジタルで残したりする「デジタル添乗員」のような仕組みです。
幹部の危機感:
「社内の業務がまだ全然デジタル化できていない。広告素材は各自のパソコンに散らばっているし、顧客データも一元管理できていない。目の前の非効率を先に片付けないと、デジタルサービスどころではない」
この2つは、どちらが正しいかという問題ではありません。 DX推進計画には、両方を入れます。
【短期(1〜2年目)】足元の非効率を解消する
顧客データの一元化、広告素材の共有管理、業務の標準化
↓
【中期(2〜3年目)】成功体験を積む
デジタルツールの社内浸透、業務効率化の効果測定
↓
【長期(3〜5年目)】お客様向けの新サービスを展開
デジタル添乗員構想の実現、顧客体験のデジタル化
見落としがちなのは、長期ビジョンだけを計画に書いてしまうこと、または短期の非効率解消だけで終わってしまうことです。DX推進計画は、社長のビジョン(到達点)と現場の課題(出発点)の両方を1つの計画に統合するものです。
社長がどんなに素晴らしいビジョンを描いても、現場の業務が手作業だらけでは実現できません。逆に、現場の非効率を潰すだけでは「デジタル化」にはなっても「DX(変革)」にはなりません。
両方を1つの計画に入れ、段階を明確にすることが、観光業のDX推進計画で最初に見落としがちなポイントです。
経営理念から計画を逆算する
興味深かったのは、この旅行会社の社長がDX推進計画の策定をきっかけに、初めて経営理念を文章化されたことです。
「新しい体験を作り、新しい生き方を作り、新しい価値観を作っていく」
これまで経営理念は「社長の頭の中にはあるけど、文言にしていなかった」状態でした。DX推進計画を作るプロセスの中で、「自社が何のために存在するのか」を言語化し、それを全社員と共有する機会になったのです。
DX推進計画書は、実は経営計画書にかなり近いものです。 到達点(経営理念の実現)があり、現状分析があり、施策とスケジュールがあり、数値目標がある。この構造は経営計画そのものです。
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2. 儲からない仕事を選別する基準を作る
検索キーワードを残しながら、現場で判断しやすい形に論点を整理します。
観光業のDX推進計画で2番目に見落としがちなのが、業務の選択と集中です。
デジタル化と聞くと「効率化」をイメージされる方が多いのですが、効率化の前にやるべきことがあります。それは、そもそもやるべき仕事とやめるべき仕事を選別することです。
ある旅行会社の幹部がこう話してくださいました。
「儲からない仕事をやっている。それが一番の問題だと、以前コンサルタントに指摘されました。私もその通りだと思っています」
しかし、実際にはなかなか改善が進みません。なぜか。
「営業マンがみんな30年、40年の経験者で、自分のやり方と自分のお客様にプライドを持っている。会社として『この仕事はやめてください』と具体的に言わないと、変わらない」
この問題の根は、判断基準がないことにあります。
この旅行会社では、ツアーの収益管理として仕入れ(ホテル代、バス代、プロ添乗員の委託料等)と売上の差額は出していました。しかし、営業マンがそのツアーにかけた時間のコストは計算されていませんでした。
つまり、「このツアーは利益が出ています」と報告されていても、営業マンが100時間かけて準備した結果の利益5万円なのか、20時間で利益50万円なのかが、区別できない状態だったのです。
DX推進計画に「選別の仕組み」を入れる
この課題に対して、DX推進計画の中に以下のような仕組みを組み込むことを提案しました。
Step 1: 案件ごとの工数記録を始める
営業マンが各案件にどれだけの時間を使ったかを記録する仕組みを導入する。最初はExcelやGoogleスプレッドシートで十分です。
Step 2: 時間あたりの収益を算出する
「案件の利益 ÷ 投下した時間 = 時間あたりの収益」を営業マンごと・案件ごとに可視化する。
Step 3: 撤退基準を設定する
時間あたりの収益が一定水準を下回る案件は、継続するか撤退するかを会社として判断する。
「各営業マンに任せているだけでは変わらない。会社として、この仕事は続ける、この仕事はやめる、という具体的な判断を出さないといけない」
この幹部のおっしゃる通りで、属人化した営業スタイルをデジタル化するためには、まず判断基準を共有することが前提になります。
DX推進計画は「ITツールを入れる計画」ではなく、「経営判断の基準を作り、それをデジタルで可視化・共有する計画」です。ここを見落とすと、高いシステムを入れても誰も使わない、という事態に陥ります。
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3. 顧客データ・広告素材の一元管理から始める
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3番目に見落としがちなのが、足元のデータ管理です。
観光業・旅行業は、営業活動の中で大量のデータを扱います。
- 顧客情報(氏名、連絡先、過去の旅行履歴、好み)
- 広告素材(チラシのデザイン、写真、キャッチコピー)
- 旅程の情報(宿泊先、交通手段、スケジュール)
- 仕入れ情報(ホテルの料金、バス会社の連絡先)
問題は、これらが各営業マンの個人パソコンに分散して保存されているケースが非常に多いことです。
「顧客データが各人の個人パソコンに分散されている状態。まずこれを統一していくところから進めていかないと」
営業マンが退職したら、その人のパソコンに入っていた顧客情報も一緒に失われてしまいます。また、同じお客様に別の営業マンが重複してアプローチしてしまうリスクもあります。
Google Workspaceで低コストに一元化する
顧客データと社内資料の一元管理には、Google Workspace(旧G Suite)が有効です。月額680円〜で以下の環境が整います。
| 用途 | Google Workspaceの機能 | 効果 |
|---|---|---|
| 顧客データの一元管理 | Googleスプレッドシート(共有) | 全員が同じデータを見て営業できる |
| 広告素材の共有 | Googleドライブ(共有フォルダ) | 探す時間がゼロになる |
| 日程調整 | Googleカレンダー | 添乗スケジュールの重複防止 |
| 情報共有 | Gmail + Google Chat | 繁忙期でも非同期でやりとり |
| 議事録・マニュアル | Googleドキュメント | ナレッジの属人化防止 |
ポイントは、高額なCRM(顧客管理システム)を最初から導入しないことです。まずはGoogleスプレッドシートで顧客一覧を作り、全員が同じファイルを見て営業する状態を作る。その運用が定着してから、必要に応じてCRMへのステップアップを検討する方が堅実です。
繁忙期でも止めない仕組み
観光業特有の課題として、繁忙期に改善活動が止まるというものがあります。
ある旅行会社では、9月〜11月の繁忙期には営業会議すら開催できない状態でした。改善の話し合いはLINEやメールで最低限のやりとりをするだけ。
DX推進計画を策定する際には、この「繁忙期の空白」を織り込んでスケジュールを組む必要があります。
- 閑散期(12月〜3月): システム導入、データ移行、社員研修
- 繁忙期(9月〜11月): 導入済みツールの運用に集中。新規の改善は行わない
- 繁忙期の直後(12月): 繁忙期の振り返り。何が不便だったかを記録する → 次年度の改善項目にする
繁忙期でも止めなくてよい仕組み(クラウドツールによる情報共有等)を閑散期のうちに構築しておくのが、観光業のDX推進計画の鍵です。
04 SUMMARY
まとめ — 観光業のDX推進計画は「体験」と「情報の流れ」の両方を扱う
記事全体の要点を、次の行動につながる形で整理します。
山形県の観光業がDX推進計画を策定する際に見落としがちな3つのポイントをまとめます。
1. 社長のビジョンと現場の非効率を分離して、段階的に計画に入れる
デジタル添乗員のような発展的構想と、データ分散・業務非効率の解消は、別の施策として計画に盛り込む。短期→中期→長期の段階設計が必要。
2. 儲からない仕事を選別する基準を作る
効率化の前に選択と集中。案件ごとの工数記録と時間あたり収益の可視化で、撤退基準を明確にする。属人化した営業スタイルを変えるには、会社としての判断基準が不可欠。
3. 顧客データ・広告素材の一元管理から始める
個人パソコンに分散したデータをクラウドに集約する。Google Workspaceなら月額680円〜。繁忙期の空白を織り込んだスケジュール設計が必要。
DX推進計画は、作って終わりではありません。 毎年更新するもので、計画通りに進まなくても、そこから学んで翌年の計画を修正すればよいのです。大事なのは、自社が目指す方向を言語化し、全員で共有すること。その第一歩が、DX推進計画の策定です。
05 ISSUE
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