DX・生成AIコラム
私は10年以上、ITコーディネータとして山形県や福島県の中小企業を支援してきました。
DX推進計画策定事業で製造業の経営者と対話を重ね、経営環境の変化やデジタル化の進め方について議論を交わす中で、ある結論にたどり着きました。
「経営理念に真剣に向き合えば、DXは必然的に達成できる」。
この発見を、DXの成功事例と山形県の経営環境を交えてお伝えします。
対象地域・業種: 山形県・福島県・宮城県の中小企業、特に製造業・建設業のDXを考えると、最後は経営理念に戻ります。効率化だけでなく、地域に何を残すか、顧客に何を届けるかをデジタルで実装する考え方です。
現場で見る共通点: 製造業でも建設業でも、DXは流行語ではありません。自社の理念を、品質、納期、現場の安全、顧客対応、人材育成に落とし込むための実装手段です。
POINT
この記事の要点
東北の製造業・建設業が何を成し遂げたいかを、デジタル化の方向に変えます。
効率化だけでなく、顧客や地域にどう価値を返すかを考えます。
理念を掲げるだけでなく、会議体、教育、標準化に落とし込みます。
01 VIEWPOINT
なぜDXは「わかりにくい」のか
検索キーワードを残しながら、現場で判断しやすい形に論点を整理します。
「DXって結局何なの?」
この質問は、山形県・福島県の中小企業の経営者から最も多くいただく質問です。そしてこの「わかりにくさ」には理由があります。
世の中に溢れている「DX」のほとんどが、実はDXではないからです。
国会でiPadを使ってペーパーレスにしたことを「国会DX」と報じる。セブン-イレブンのセルフレジを「小売業のDX」と紹介する。これらは全て、DXではなく「デジタル化」です。
経済産業省のデジタルガバナンスコードでは、DXをこう定義しています。
データとデジタル技術を活用して、顧客視点で競争上の優位性を確立すること
iPadで資料を配っても、会議の構造は変わりません。セルフレジになっても、お客様がレジに行って精算するという構造は変わりません。構造が変わらないものはDXではなく、デジタル化です。
DXとデジタル化の最も本質的な違いは、「矢印の向き」です。
- デジタル化: 矢印が内向き。自社の課題をデジタルで解決する。「正解を探す方法」
- DX: 矢印が外向き。顧客・社会の課題にデジタルで応える。「問題を探す方法」
デジタル化は「どうすればもっと楽になるか」と問う。DXは「お客様は何に困っているか」と問う。
YouTubeでも報道でも、この2つがごちゃ混ぜに使われています。だから「DXって何?」がいつまでも解消されないのです。
02 VIEWPOINT
中小企業のDX、実際の成功事例
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DXが「顧客視点で競争上の優位性を確立すること」だとしたら、中小企業で実際にどんな成功があるのか。3つの事例を紹介します。
住宅メーカーがVRで売上6倍
鹿児島のある住宅メーカーでは、注文住宅を検討するお客様にVRゴーグルで完成イメージを体験してもらうサービスを導入しました。
注文住宅は、完成するまでイメージが掴めないという問題があります。図面を見せられても理解しづらい。口頭で説明されても想像できない。お客様のこの「困りごと」に目を向けたのがポイントです。
VRで「ここにドアを作るとこうなります」「この壁紙だとこんな雰囲気になります」と見せることで、お客様が安心して注文できるようになりました。
結果、売上が最も低い時期と比べて6倍に伸びました。
ただし注意すべきは、VRを入れれば住宅が売れるわけではないということです。この会社ではVRがハマっただけであって、ツールが成功の本質ではありません。「お客様が何に困っているか」を見つけ、その解決にデジタル技術を使ったことがDXです。
飲食店が来店予測95%を実現
愛媛のある飲食店では、データ分析によって来店予測を95%の精度で実現しました。
「今日は何人来るかわからない」から「今日は85人来る」がわかれば、食材の仕入れ量が最適化できます。スタッフの配置も適切にできます。食品廃棄が減り、サービスの質は上がり、コストは下がる。
これもDXです。「お客様にもっと良いサービスを提供するには」という外向きの問いから始まっています。
旅行会社が「60年の気配り」をスマホで届ける構想
山形県内のある旅行会社では、創業60年以上の経験を活かしたDX構想を描いています。
この会社の主要顧客は60〜80代のシニア層です。若い世代はオンライン旅行サイト(OTA)を使いますが、シニア層は「人に相談しながら旅行を計画したい」。この会社はそのニーズに応えてきました。
しかし、課題があります。全てのお客様に添乗員をつけるのは、コストの面で限界がある。
そこで構想されたのが、「ベテラン添乗員の気配りをスマートフォンで再現する」というDXです。
ベテランの添乗員は、旅行中のお客様のパターンを全て頭に入れています。
- 飛行機に乗る前にチケットの確認を促す
- 長時間の移動前にお手洗いを案内する
- お客様が忘れ物をしやすいポイントで声をかける
こうした「気配り」を、位置情報やタイミングに連動したスマートフォンの通知で実現しようという構想です。
この構想で最も印象的だったのは、社長のこの言葉でした。
「アピールするのはデジタル技術の素晴らしさではない。60年間培ってきたお客様への気配りが、お手元に届きますということ。私たちのお客様に対する愛情、気配りが凝縮されたものだ」
DXの本質がここにあります。 技術が主役ではなく、お客様への想いが主役。デジタルはそれを届ける手段にすぎない。
03 VIEWPOINT
山形県の経営環境は「変わった」のか
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ここで、山形県の中小企業が置かれている経営環境を確認しましょう。
人口: 山形県全体で約102万人(2024年時点)。2040年には約50万人まで半減すると予測されています。山形市周辺を除く広大なエリアから、さらに人が減っていきます。鶴岡市・酒田市を合わせても約20万人。これらが「消滅可能性都市」に挙げられています。
最低賃金: 2014年の680円から2024年の980円へ、10年で1.4倍に上昇。特に2020年以降の引き上げ率は急激です。政府は2034年までに全国平均1,500円を目標に掲げています。
社会保障: IMF(国際通貨基金)は2040年までに消費税20%への引き上げを提言しています。子ども・子育て支援金の導入も確定しています。
災害リスク: 「マルチハザード」(複数の災害が連続して襲う)が現実になっています。能登半島では地震の後に豪雨が来ました。山形県でも大雨被害が繰り返されています。1つの災害で終わらない時代に入っています。
中小企業の売上は、最低賃金の上昇に比例して伸びていません。 つまり、利益を削って人件費を引き上げていかざるを得ない構造があります。
ここまで聞くと、暗い気持ちになるかもしれません。
しかし、解釈は変えられます。
04 VIEWPOINT
「まだ半分ある」という解釈
検索キーワードを残しながら、現場で判断しやすい形に論点を整理します。
変化が起きているということは、固定されていた序列が崩れるということです。
変化が起こらなければ、強者は強者のまま、弱者は弱者のままです。 しかし変化が起きれば、その変化に乗じた新しいやり方が通用する余地が生まれます。
ビールのコップが半分になったとき、「半分しかない」と捉えるか、「まだ半分ある」と捉えるか。事実は同じでも、解釈は違っていい。
日本政策金融公庫の調査では、取引先企業の約3分の1がデジタル化に取り組んでいないと回答しています。裏を返せば、デジタル化に舵を切るだけで3分の1の競合に対して先を行けるということです。
人口が減る。人手が足りない。だからこそ、デジタルツールを使って少ない人数で回す仕組みを作った企業が生き残る。
最低賃金が上がる。コストが増える。だからこそ、データを使って無駄を省き、付加価値の高い仕事に集中する企業が強くなる。
変化はピンチであると同時に、チャンスです。
05 PHILOSOPHY
経営理念とDXが「同じ」である理由
何を成し遂げたいかを、デジタル化の方向づけに変えます。
ここから本題です。なぜ「経営理念とDXは同じ」と言えるのか。
DXをやるには、まずこの3つの問いに答える必要があります。
- 何を成し遂げたいのか
- 地域に何を残したいのか
- どんな会社にしていきたいのか
この3つの問い、どこかで聞いたことがありませんか。
経営理念を作るときの問いと全く同じなのです。
経営理念は「あるべき姿」を描き、そこに向かってビジョンを立て、経営方針を決め、経営計画を作る。この経営計画の中に、デジタルツールを完全に排除して進めることは、今のこの時代ではあり得ません。
つまり、経営理念に真剣に向き合って経営計画を作れば、そこに必ずデジタルが入ってくる。 そしてその経営計画が「顧客視点」「地域視点」「従業員視点」で設計されていれば、それはまさにDXの定義そのものです。
さらに言えば、DXの「X」はTransformation(変革)のXです。本来ならDTのはずですが、あえてXが使われている。Xは横棒が交差する文字であり、「現状を突き抜ける」というイメージが込められています。
大事なのはD(デジタル)ではなく、X(変革)です。
何を変えたいのか。なぜ変えたいのか。誰のために変えるのか。この問いに向き合うことが、DXの出発点です。
そしてこの問いは、経営理念を考えるときの問いと全く同じです。
経営に真正面から向き合っていただければ、DXは必然的に達成できる。 これが、私が10年以上の支援現場でたどり着いた結論です。
06 VIEWPOINT
では、何から始めるか
検索キーワードを残しながら、現場で判断しやすい形に論点を整理します。
「経営理念とDXが同じだとわかった。でも、今の自社はまだデジタル化も途上だ」
その認識は正しいです。多くの山形県・福島県の中小企業にとって、今のステージは「DX」ではなく「デジタル化」です。
ある経営者はこう話してくれました。
「IT化したい、社内のデジタル化をどう進めて効率化を図るか。そこなんですよね。それができて、じゃあ社会問題をどう解決するかっていうのは、かなり先の話かな」
その通りです。 デジタル化が土台であり、DXはその先にあります。
しかし、デジタル化に取り組む「向き」だけは間違えないでほしいのです。
デジタル化を「コスト削減」や「効率化」だけの文脈で進めると、従業員にとっては「楽になってよかった」で終わります。それ自体は悪いことではありませんが、DXには繋がりません。
デジタル化を「うちの会社はこれからどうなりたいのか」「お客様にどんな価値を届けたいのか」という経営理念の文脈で進めると、同じツールを導入しても、その先にDXの道筋が見えてきます。
デジタル化の「向き」を経営理念に合わせること。 これが、今すぐできる最初の一歩です。
07 SUMMARY
まとめ — 経営に向き合えば、DXは見えてくる
ここまでの論点を、最初の一歩に戻して整理します。
- DXは「顧客視点で競争上の優位性を確立すること」。矢印は外向き
- 成功事例の共通点は「お客様の困りごと」に目を向けたこと。技術は手段にすぎない
- 山形県の経営環境は変化している。変化はチャンスでもある
- 経営理念とDXは同じ問いから始まる。「何を成し遂げたいのか」「誰のために変えるのか」
- 大事なのはD(デジタル)ではなくX(変革)。経営に向き合えばDXは必然的に見えてくる
私はITコーディネータとして多くの製造業を支援してきましたが、DXの専門家の中で、経営理念とDXが同じ構造であることに気づいている人はまだ少ないと感じています。
技術の話ではなく、経営の話としてDXに向き合う。その出発点は、自社の経営理念を見つめ直すことです。
08 PHILOSOPHY
経営理念×DXの相談なら
何を成し遂げたいかを、デジタル化の方向づけに変えます。
ITC南とうほく事業協同組合では、山形県・福島県・宮城県の中小企業を対象に、経営理念に根差したDX推進計画の策定を支援しています。
ITコーディネータが在籍し、「技術の話」ではなく「経営の話」からDXを一緒に考えます。補助金の活用からIT導入の実装まで一気通貫でサポート。特定のITベンダーに縛られない、フラットな立場での助言を強みとしています。
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