DX・生成AIコラム
DX推進計画を策定する際、経営者が最も頭を悩ませるのはどの部分でしょうか。
山形県・福島県・宮城県を中心に、南東北の中小企業、製造業・建設業・卸売業などにも通じる視点です。
ツール導入そのものより、業務整理、社内合意、定着までの進め方が成果を左右します。
POINT
この記事の要点
なぜ「あるべき姿」が必要なのか
「あるべき姿」を描けない3つの壁
事例1: 山形県の観光業が「あるべき姿」を再定義した話
DX推進計画を策定する際、経営者が最も頭を悩ませるのはどの部分でしょうか。
私はITコーディネータとして、山形県・福島県を中心に複数の中小企業のDX推進計画策定を支援してきました。その経験から断言できるのは、最も難しいのは「あるべき姿(DX構想)」を描くことだということです。
「1番難しいのは第2章のDX構想」
これは、DX推進計画策定事業に取り組んだある企業の経営者の率直な声です。現状分析はできる。課題の洗い出しもできる。しかし、「では、自社はどうなりたいのか?」「3年後、5年後にどんな姿になっていたいのか?」——この問いに答えるのが、圧倒的に難しいのです。
この記事では、中小企業がDX推進計画の中で「あるべき姿」を描くための具体的な方法を、実際の支援事例をもとにお伝えします。
なぜ「あるべき姿」が必要なのか
DX推進計画には、一般的に以下のような構成があります。
- 現状分析: 自社の業務、IT環境、人材、組織の現状を整理する
- DX構想(あるべき姿): 自社がDXによって目指す姿を描く
- 課題整理: 現状とあるべき姿のギャップを明確にする
- 実行計画: ギャップを埋めるための具体的なアクションと工程表
この中で、第2章の「DX構想(あるべき姿)」が最も重要であり、最も難しい部分です。
「あるべき姿」がないDX推進計画は、目的地のないカーナビと同じです。 現在地はわかっている。道もある。しかし、どこに向かうのかがわからなければ、走り出すことができません。
実際に、「あるべき姿」が曖昧なまま計画を作ると、以下の問題が起きます。
- ツールの選定基準がない: 「何のために」がないから、「便利そうだから」で選んでしまう
- 投資の判断ができない: 「これに500万円かける価値があるか?」と聞かれても、基準がない
- 社員に説明できない: 「なぜDXをやるのか」に答えられない
- 計画が形骸化する: 作った計画書が引き出しの中で眠る
「あるべき姿」を描けない3つの壁
中小企業の経営者が「あるべき姿」を描けないのには、共通する3つの壁があります。
壁1: 日常業務に追われて考える時間がない
中小企業の経営者は、自ら営業に出て、現場の問題に対処し、資金繰りを考えている。「3年後の姿を考えてください」と言われても、「今月の売上をどうするか」で頭がいっぱいです。
壁2: 「デジタル技術で何ができるか」がわからない
ITの専門知識がないと、「デジタル技術を使えばこんなことができる」というイメージが湧きません。結果として、「あるべき姿」が「今の業務を効率化した姿」にとどまってしまいます。
壁3: 「正解」を求めてしまう
「あるべき姿」に正解はありません。しかし、経営者は「間違えたくない」「失敗したくない」と思うあまり、描くこと自体をためらってしまいます。
事例1: 山形県の観光業が「あるべき姿」を再定義した話
山形県のある観光業(旅行会社)では、DX推進計画の策定支援を行いました。この企業は、従来型の旅行代理店業務を主力としていましたが、コロナ禍やOTA(オンライン旅行代理店)の台頭で、ビジネスモデルの転換を迫られていました。
最初に現状分析を行った際、経営者からこんな声がありました。
「あるべき姿をもう一度定義し直そう」
この言葉の背景には、従来の延長線上では未来が描けないという危機感がありました。旅行の手配業務をデジタル化するだけでは、OTAには勝てない。自社ならではの価値を再定義する必要がある。
この企業では、以下のプロセスで「あるべき姿」を描き直しました。
- 顧客の声を集める: 「なぜうちを選んでくれるのか?」を既存顧客にヒアリング
- 自社の強みを棚卸しする: 地域のネットワーク、現地の知見、きめ細かいサービス
- 競合と比較する: OTAにはできないことは何か?
- 「あるべき姿」を言語化する: 「地域密着型の旅のコンシェルジュ」として、デジタルとリアルを融合した体験を提供する企業
ポイントは、「自社の業務をデジタル化した姿」ではなく、「顧客にとっての価値を再定義した姿」を描いたことです。
事例2: 東北の製造業が「古い設備の修理依頼」から未来を見つけた話
もう1つの事例は、東北のある製造業です。この企業は自社製品の製造・販売を行っていましたが、DX推進計画の策定にあたって「あるべき姿」が描けずに苦戦していました。
転機になったのは、日常の何気ない業務の中にありました。
「古い型式の修理依頼」
この企業には、何十年も前に販売した自社製品の修理依頼が、今でも定期的に届いていました。古い型式の製品を、今の部品で修理する。これは手間がかかる仕事であり、利益率も低い。社内では「面倒な仕事」と見なされていました。
しかし、この「古い型式の修理依頼」の中に、この企業の「あるべき姿」のヒントがあったのです。
なぜお客様は、何十年も前の製品を修理してまで使い続けるのか。 それは、この企業の製品に信頼を置いているからです。「ここの製品なら長持ちする」「ここなら古い機種も直してくれる」——この信頼が、長年の取引関係を支えていました。
この気づきから、「あるべき姿」が見えてきました。
- 製品のライフサイクル全体をデジタルで管理する: 販売時点から修理履歴、部品交換履歴、次回メンテナンス時期まで一元管理
- 予防保全の提案: 「そろそろこの部品の交換時期です」と先回りで連絡
- 修理依頼のデジタル化: Web経由での修理依頼・進捗確認
「面倒な仕事」だと思っていた修理依頼の中に、顧客との長期的な関係を深化させるDXの種があったのです。
中間CTA: 「あるべき姿」が描けずに困っている方へ
「DX推進計画を作りたいが、あるべき姿が描けない」「現状の延長線上しかイメージできない」——そうしたお悩みは、経営者1人で抱え込む必要はありません。
ITコーディネータが対話を通じて、御社の「あるべき姿」を一緒に言語化します。
「あるべき姿」を描くための実践的な3ステップ
これらの事例から得られた知見をもとに、中小企業が「あるべき姿」を描くための実践的なステップをまとめます。
ステップ1: 「お客様はなぜうちを選んでいるのか?」を問い直す
DXの「あるべき姿」は、社内の効率化ではなく、顧客への価値提供を起点に描くべきです。
具体的には、以下の問いに答えてみてください。
- お客様がうちに求めていることは何か?
- 競合他社ではなく、うちを選ぶ理由は何か?
- お客様が「困っている」けれど、言葉にしていないことは何か?
- うちが提供している価値の中で、デジタル技術で強化できるものは何か?
この問いに答えるために、既存のお客様3〜5社にヒアリングすることをお勧めします。自社の強みは、自分たちでは気づきにくいものです。お客様の声の中に、「あるべき姿」のヒントが隠れています。
ステップ2: 「3年後の理想の1日」を具体的に描く
「あるべき姿」を抽象的なスローガンにしないために、「3年後の理想の1日」を具体的にシミュレーションする方法が有効です。
たとえば、卸売業であれば:
- 朝: 前日の受注データが自動で集計され、出荷指示が自動生成されている。社員は例外対応だけに集中できる
- 午前: 営業担当は、AIが分析した得意先の購買傾向データをもとに、提案先リストを確認。的を絞った営業活動を行う
- 午後: 得意先からのWeb注文がリアルタイムで入ってくる。電話は問い合わせ対応と関係構築に使われている
- 夕方: 日次の売上・在庫・利益率がダッシュボードで一目で確認できる。翌日の発注が自動提案される
このように、未来の1日を具体的に描くことで、「何を変えるべきか」「何のためにデジタルを使うのか」が明確になります。
ステップ3: 「やらないこと」を決める
「あるべき姿」を描くときに陥りがちなのが、理想を詰め込みすぎることです。
中小企業のリソース(人・モノ・金・時間)は有限です。全てを実現しようとすると、何も実現できません。
「あるべき姿」の中にも優先順位をつけ、「最初の3年で実現すること」と「その先で検討すること」を分けてください。
判断基準は以下の3つです。
- 売上への影響度: お客様に直接価値を提供し、売上につながるか?
- 実現可能性: 今の社内リソースで取り組めるか?
- 社員の共感度: 社員が「これはやりたい」と思えるか?
3つ全てを満たすものから着手する。これが、実現可能な「あるべき姿」の描き方です。
「あるべき姿」が描けると何が変わるのか
「あるべき姿」が明確になると、DX推進計画全体が大きく変わります。
| 「あるべき姿」がない場合 | 「あるべき姿」がある場合 |
|---|---|
| ツールを「便利そうだから」で選ぶ | ツールを「目的に合うから」で選ぶ |
| 投資判断に迷う | 「あるべき姿に近づくか」で判断できる |
| 社員に「なぜやるのか」を説明できない | 社員と「目指す姿」を共有できる |
| 計画が形骸化する | 計画が行動指針になる |
| 困難に直面すると挫折する | 「あるべき姿」に立ち返って立て直せる |
「あるべき姿」は、DX推進の北極星です。 迷ったときに立ち返る場所があるかどうかで、プロジェクトの成否が決まります。
よくある誤解: 「あるべき姿」は完璧でなくていい
最後に、「あるべき姿」に関するよくある誤解を解消しておきます。
誤解1: 「一度決めたら変えてはいけない」
「あるべき姿」は、環境変化に応じて見直すべきものです。3年前に描いた姿と、今の市場環境が変わっているなら、「あるべき姿をもう一度定義し直す」ことが必要です。むしろ、見直さないことのほうがリスクです。
誤解2: 「デジタル技術の知識がないと描けない」
「あるべき姿」は、技術の話ではなく、経営の話です。「お客様にどんな価値を提供したいか」「社員にどんな働き方をしてほしいか」——これは経営者にしか描けません。技術的にどう実現するかは、ITコーディネータやベンダーの役割です。
誤解3: 「中小企業には大げさだ」
従業員10名の企業でも、「あるべき姿」は描けます。規模の大小ではありません。「3年後にこうなりたい」という意志があるかどうかです。
まとめ: 「あるべき姿」はDX推進計画の心臓部
DX推進計画で最も難しく、最も重要なのは「あるべき姿」を描くことです。
- 顧客への価値提供を起点に考える
- 「3年後の理想の1日」を具体的にシミュレーションする
- 「やらないこと」を決めて優先順位をつける
- 環境変化に応じて見直す覚悟を持つ
1人で悩む必要はありません。対話を通じて言語化していくプロセスそのものが、「あるべき姿」を描く最良の方法です。
末尾CTA: DX推進計画の策定をお考えの方へ
ITC南とうほくでは、DX推進計画の策定を支援しています。「あるべき姿」の言語化から、具体的な実行計画の策定まで、ITコーディネータが伴走します。
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