山形県の製造業がDX推進計画を策定する前に知っておくべき3つのこと

DX・生成AIコラム

山形県や福島県の製造業の経営者から、「うちもDXをやらなきゃいけないのはわかっている。でも、何から手をつければいいのかわからない」という相談を数多くいただきます。

私は山形県・福島県を中心に、ITコーディネータとしてDX推進計画の策定を支援してきました。山形産業支援機構のDX推進計画策定事業などを通じて、実際に複数の製造業の現場に入り、経営者や従業員の方々と一緒にDXの計画を作り上げてきた経験があります。

その中で気づいたのは、DX推進計画を策定する前に、3つのことを押さえておかないと、計画そのものが空回りするということです。

この記事では、実際の支援現場で見てきた事例をもとに、DX推進計画を策定する前に知っておくべき3つのポイントをお伝えします。

対象地域・業種: 本記事では、山形県・福島県・宮城県を含む南東北の製造業・建設業が、DX推進計画を作る前に整理しておきたい論点としてまとめます。個別企業名は出しませんが、地域の中小企業支援で実際に向き合ってきた課題をもとにしています。

現場で見る共通点: 製造業では工程、原価、在庫、品質、建設業では現場管理、見積、写真台帳、日報、協力会社との情報共有に同じ構造が出ます。業種は違っても、最初に必要なのは「何を変えるか」を言葉にすることです。

POINT

この記事の要点

南東北の実務に合わせる

山形県・福島県・宮城県の製造業・建設業で起きやすい課題を前提に整理します。

現在地を診断する

自己診断で思い込みを外し、現象と課題を分けて見ます。

組織の土壌を作る

トップの熱意を、現場が動ける会議体と成功体験に変えていきます。

01 VIEWPOINT

「デジタル化」と「DX」は違う — まずデジタル化から始める

製造業・建設業のどちらでも、社内を整える取り組みと顧客価値を変える取り組みを分けて考えます。

DX推進計画を策定するとき、最初に整理すべきなのが「デジタル化」と「DX」の違いです。

この2つは、報道やYouTubeでもごちゃ混ぜに使われていることが多く、混乱の原因になっています。しかし、経済産業省が示すDXの考え方では、顧客視点と競争優位が重視されています。

DXとは、データとデジタル技術を活用して、顧客視点で競争上の優位性を確立すること

ポイントは「顧客視点」と「競争上の優位性」です。つまり、社内の業務を効率化するだけではDXとは呼べません。

デジタル化とDXの違いを整理すると、こうなります。

デジタル化DX
目的業務効率化・生産性向上競争上の優位性の確立
視点内向き(自社の課題を解決)外向き(顧客・社会のニーズに応える)
構造現状維持(紙をiPadに置き換える等)構造変革(ビジネスモデルそのものを変える)
矢印の方向自社の問題に向かう(内向き)顧客・市場に向かう(外向き)

たとえば、国会で紙の資料をiPadに変えたことを「国会DX」と呼んでいますが、あれは単なるデジタル化です。会議をみんなで開くという構造自体は変わっていません。紙がiPadに置き換わっただけで、印刷代はなくなるかもしれませんが、会議の構造は何も変わっていない。セブン-イレブンのセルフレジも同じです。お客様がレジに行って精算するという構造は変わっていません。あれもデジタル化です。

言い換えると、デジタル化は「正解を探す方法」、DXは「問題を探す方法」です。

デジタル化は「どうすればもっと効率的になるか」という内向きの問いに答えるもの。DXは「お客様は何に困っているか」「業界に何が求められているか」という外向きの問いに向き合うものです。

山形県・福島県の製造業の現場では、まずデジタル化から取り組むのが正解です。

実際に支援した山形県内のある製造業では、「DXをやりたい」と相談を受けましたが、現場を見ると勤怠管理は紙の打刻、原価管理は個別のソフトがバラバラに動いている状態でした。経営者の方も「やっとデジタル化に取り組み始めたところ」と認識されていました。

この企業では、勤怠と給与と原価管理をつなげたいという構想がありました。しかし、勤怠は勤怠、給与は給与、原価管理は原価管理と、それぞれ別のソフトが動いていて、連携できない。CSVに書き出して手作業で取り込むしかない。こういう状態は山形県内の製造業では珍しくありません。

製造業がDXに至るまでには、明確な段階があります。

【海底の状態】
  2度手間の作業、余剰在庫、作業ミスによるクレーム、納期遅れ
    ↓ デジタル化による課題解決
【普通の状態】
  作業が平準化、みんなが同じ品質で仕事ができる、納期遵守、在庫適正化
    ↓ 成功体験の蓄積 → 「デジタルツールっていいものだ」という空気
【DXへの挑戦】
  業界の常識を覆すスピード、他社が真似できないサービス、顧客視点の競争優位性

デジタル化を積み重ねることで、経営者だけでなく現場の従業員全員が「デジタルツールを使うといいことあるんだな」という成功体験を持つ。その土壌ができて初めて、DXに挑戦できる状態になります。

いきなり「DXだ」と旗を振っても、現場がついてきません。デジタル化を否定するものではありません。むしろ、デジタル化なしにDXは達成できません。順番が大事だということです。

RPAを導入する前に知っておくべきこと

デジタル化の手段としてRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)の導入を検討される製造業も増えています。バラバラのシステムをつなぐ橋渡し役としてRPAは有効ですが、導入前に知っておくべき注意点があります。

注意点1: システムが変わるとロボットも作り直し

RPAは「このボタンを押して、ここの数字をコピーして、こちらに貼り付ける」という操作を覚えさせるものです。つまり、連携先のシステムが変わると、ロボットを作り直す必要があります。たとえば、勤怠管理をA社からB社のソフトに変えた瞬間、RPAは動かなくなります。

注意点2: 「野良ロボット」問題

社内でRPAを使いこなせる人が1人だけの場合、その人が退職するとメンテナンスできなくなります。これは業界で「野良ロボット問題」と呼ばれています。昔、Excelの達人が退職してVBAマクロが誰も触れなくなった――あの「野良エクセル」と同じ構造です。

RPAは便利なツールですが、こうした課題を理解した上で導入計画を立てないと、別の問題を生むことになります。

02 ISSUE

自社の現在地を正しく把握する — 課題と解決策を直結させない

自己診断で思い込みを外し、課題と解決策の間にある構造を見ます。

DX推進計画を策定するとき、2つ目に重要なのが自社の現在地を正しく知ることです。

DX自己診断で「思い込み」を外す

私がDX推進計画策定事業で支援する際には、まずDX自己診断を実施していただいています。5つのセクション(トップマネジメント、デジタル活用、デジタル基盤、変革、組織)について、自社の状況を点数化し、レーダーチャートで可視化するものです。

面白いのは、あるお客様がセミナー受講前と受講後の2回、この自己診断をやってくださったケースです。

受講前: トップマネジメントが高く、組織力も高い自己評価 受講後: トップマネジメントが下がり、デジタル活用の自己評価が上がった

つまり、DXについて学んだことで「自分たちが思っていたほどできていない部分」と「思っていたよりできている部分」が見えてきたのです。セミナーの前後で認識がガラリと変わるということは、最初の自己評価がいかに思い込みに基づいているかを示しています。

この自己診断で多くの製造業に共通する傾向があります。

レーダーチャートの左側(デジタル活用・デジタル基盤 = Dの部分)は比較的高いのに、右側(変革・組織 = Xの部分)が追いついていない。

つまり、ITツールはそれなりに導入している。しかし、それを活用して組織全体で変革を起こす文化や体制ができていない。ある企業の幹部の方は「情報共有にMattermostを使っていて、工場と事務所のやりとりは効率化できている。でも、組織としてDXに向かう体制はまだ」と率直に話してくださいました。

「DX推進担当者」がいない問題

自己診断で0点がつきやすい項目があります。「DXを推進する社内管理者はいますか」「DXに精通した人材はいますか」の2つです。

多くの製造業では、デジタル化に関心のある幹部が1人で奮闘しているのが実態です。「誰がDX推進の担当なのか、はっきり決めていない」という企業も珍しくありません。

この場合、まず小さなチームでいいのでデジタル化推進の会議体を作ることをお勧めしています。製造業は「小集団活動で改善テーマを決めて取り組む」文化が根付いている企業が多いので、その延長線上でデジタル化の推進チームを立ち上げるとスムーズに回り始めます。

課題と解決策を直結させない

ここで特に注意していただきたいのが、「課題と解決策を直結させない」ということです。

ある製造業から「無駄在庫が多いので在庫管理システムを導入したい」と相談を受けたことがあります。

しかし、ホワイトボードとポストイットを使って原因を深掘りしていくと、こういう構造が見えてきました。

無駄在庫がある(現象)
  ← なぜ? 発注担当者が課長1人だけ
    ← なぜ? 課長は東京出張が多い
      ← なぜ? 出張中に急な注文が入ることがある
        ← なぜ? 課長の決済がないと発注できない
          ← だから万が一に備えて多めに在庫を持っておく

この場合、本当に必要なのは在庫管理システムではなく、「課長が出張先からでも決済を出せる仕組み」でした。

極端な話、LINEで「OK」と返すだけでも、当面の課題は解決できます。もちろん最終的には在庫管理システムも導入しましたが、原因構造を可視化したことで、投資の優先順位が正しく決まりました。

デジタル化で失敗するパターンの多くは、現象と解決策を直結させてしまうことにあります。

「困っていること」と「導入するシステム」の間には、必ず原因の構造があります。その構造を可視化しないまま計画を立てると、高いシステムを入れたのに効果が出ないという事態に陥ります。

IT企業は「豊かな引き出し」を持っていますが、御社の現状認識まではしてくれません。事業者側で正しい課題認識をしておかないと、IT企業としても「売りたいものを売る」しかなくなります。この不幸な組み合わせを防ぐために、まず自社の課題構造を可視化することが不可欠です。

03 ORGANIZATION

組織が変化についていける土壌を作る — トップの熱意だけでは進まない

トップの熱意を、現場が動ける仕組みと会議体に落とし込みます。

3つ目のポイントは、組織がDXについていけるかどうかです。

「ついていけない」は後ろ向きではない

DX推進計画でよくあるのが、経営者が「どんどんやっていこう」と前のめりになっている一方で、現場の従業員がついていけないというケースです。

ある企業の従業員の方が、経営者不在の場で率直にこう話してくださいました。

「社長がどんどんやっていこうという気持ちはわかるんですけど、我々としてはちょっとずつ身につけていきながら進めたい。なかなかついていけないところがある」

これは決して後ろ向きな発言ではありません。変革のスピードと現場の習熟度のギャップは、多くの製造業で起きている構造的な問題です。

経営者が確信を持って「変革だ」と進む。それ自体は素晴らしいことです。しかし、新しいシステムが入り、新しいやり方が導入され、それを覚える前にまた次の変革が来る。特に新入社員にとっては、「覚える前にやり方が変わる」状態が続くと、定着の前に離職してしまう可能性があります。

山形県の製造業が直面する「人」の課題

山形県は2040年に人口が約50万人まで半減すると予測されています。現在の県全体の人口が約102万人ですから、山形市周辺を除いた広大なエリアに住む人がさらに減っていくということです。

最低賃金も2014年の680円から2024年の980円まで、10年間で1.4倍に上昇しました。特に2020年以降の引き上げ率は急激です。一方で、中小企業の売上がそれに比例して伸びたかというと、伸びていません。利益を削って人件費を引き上げていかざるを得ないのが実態です。

日本政策金融公庫の調査によると、取引先企業のうち約3分の1が「デジタル化に取り組んでいない」と回答しています。裏を返せば、デジタル化に舵を切るだけで、3分の1の競合に対して差をつけられるということでもあります。

しかし、デジタル化を急ぐあまり、せっかく採用した人材が離職してしまっては本末転倒です。

DX推進チームで「自分ごと化」する

ある製造業の幹部の方が、支援の中でこう気づきを話してくださいました。

「動かしてる人が1人、2人では何も変わらない。現場の声を聞かないとできないし、現場の人が使うものだから、提案してもらえる環境にしないといけない」

そして、こう続けました。

「若い20代の社員にDXのチームに入ってもらえれば、本人たちのモチベーションも変わるし、定着にもつながるんじゃないか」

DX推進を、単なるシステム導入の話ではなく、若手社員の育成と定着の機会として位置づける。これは非常に重要な視点です。

デジタル化の推進チームに若手を入れ、現場の改善テーマを自分たちで選び、自分たちで取り組む。その過程で「自分が会社を変えている」という実感が生まれる。それが定着率の向上にもつながります。

DXの先にあるもの — 経営理念との接続

DXとは結局、何を成し遂げたいのか、地域に何を残したいのか、どんな会社にしていきたいのか、という問いに行き着きます。

デジタルツールはあくまで手段です。大事なのはX(変革)の部分であり、その変革の方向性は経営理念から導かれるべきものです。

地域に目線がないDXはありません。お客様に目線がないDXもありません。従業員に目線がないDXもありません。だからこそ、デジタル化の土台を作りながら、「自社は何のためにDXに取り組むのか」を組織全体で共有していくことが重要です。

具体的には、以下の順番で進めることをお勧めします。

  1. まずは小さなデジタル化で成功体験を作る(勤怠管理、情報共有ツール、ペーパーレス化など)
  2. デジタル化推進チームを組成する(若手を巻き込み、現場の声を拾う体制)
  3. 成功体験を組織全体で共有する(「これは便利だ」という空気を醸成する)
  4. 課題構造を可視化する習慣をつける(ポストイット分析など)
  5. その土壌の上にDXの計画を載せる(経営理念と接続した、顧客視点の競争優位性確立へ)

04 SUMMARY

まとめ — DX推進計画を策定する前に

ここまでの論点を、最初の一歩に戻して整理します。

山形県・福島県の製造業がDX推進計画を策定する前に押さえるべき3つのポイントをまとめます。

1. 「デジタル化」と「DX」は違う

デジタル化は内向き(業務効率化)、DXは外向き(競争優位性の確立)。製造業のDXは「海底の状態 → 普通の状態 → DXへの挑戦」という段階を踏みます。いきなりDXを目指すのではなく、まずデジタル化で足元を固めましょう。

2. 自社の現在地を正しく把握する

DX自己診断で思い込みを外し、課題と解決策を直結させない。ポストイットで原因構造を深掘りすることで、本当に必要な投資が見えてきます。IT企業に相談する前に、自社の課題認識を整理しましょう。

3. 組織が変化についていける土壌を作る

トップの熱意だけでは現場は動きません。小さな成功体験の積み重ねと、若手を巻き込んだ推進チームの組成が鍵です。DXは経営理念の実現手段であり、組織全体で「何のためにやるのか」を共有することが不可欠です。

これらは、私がITコーディネータとして山形県や福島県の製造業を複数社支援する中で、繰り返し見てきた現実です。

「DXをやらなきゃ」という焦りは理解できます。しかし、正しい順番で取り組まなければ、投資した時間もコストも無駄になります。

変化が起きている時代だからこそ、その変化にビジネスチャンスを見つけることもできるはずです。ビールのコップが半分になっても「まだ半分ある」と捉える。その解釈から始めてみませんか。

05 CONTACT

DX推進計画の策定でお悩みなら

自社の状態に合わせて、次に進める順番を一緒に整理します。

ITC南とうほく事業協同組合では、山形県・福島県・宮城県の中小企業を対象に、DX推進計画の策定を支援しています。

ITコーディネータが在籍し、DX自己診断の実施から課題の構造化、具体的なITツールの選定、補助金の活用まで一気通貫でサポートします。

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